知っていますか？あなたの生涯医療費の現実

人生でかかる医療費の総額を「生涯医療費」と呼びます。この金額は約2700万円に達し、郊外の一軒家を購入できるほどの大きさです。さらに、全ての国民が医療保険に加入している日本の国民医療費は44兆円を超え、国民皆保険制度の開始以来、増加の一途をたどっています。

日本では人口の高齢化が進んでおり、特に後期高齢者の増加が著しいです。年齢が上がるにつれて医療費も増加し、生涯医療費が増える傾向にあります。特に、70歳以上の人々にかかる医療費は全体の51％を占めており、その影響は無視できません。

医療技術の進歩は、治療法の多様化や高度化をもたらし、それに伴う医療費の高額化を招いています。また、入院日数が長引くことや、国民皆保険制度により誰でも気軽に病院を訪れやすい環境が整っていることも、生涯医療費の増加に繋がっています。政府が進める「健康日本21」という施策は、平均寿命の延長以上に健康寿命（自立して生活できる期間）を延ばすことを目指しています。健康寿命が延びることで、医療費や介護費用がかかる不健康期間を短縮し、医療費削減につながるとされています。この施策の一環として、1995年から5万人を対象にした「大崎国保コホート研究」が行われ、生活習慣と生涯医療費の関係が検証されました。その結果、健康と医療費の密接な関係が浮き彫りになっています。

体格と生涯医療費の関係について見ていきましょう。体格を示す指標であるBMI（体重(kg)÷身長(m)^2）を基に、痩せ、普通体重、過体重、肥満の4つのグループに分類し、それぞれの医療費を比較しました。40歳の男性において、生涯医療費はBMIが高くなるほど増加し、肥満者は普通体重の人に比べて生涯医療費が208.1万円も高いことがわかりました。肥満の方は、普通体重の人に比べて平均寿命が約3年短くなる一方で、糖尿病の合併症により腎臓を悪くしたり、脚を切断するリスクが高まり、その治療にかかる医療費も増加します。このように、肥満は短命かつ医療費が高くなる傾向があります。

男女ともに平均余命が最も長いのは、普通体重の人よりも少し太っている過体重の人々です。BMIが25〜27の範囲にある人々は、死亡率が最も低くなります。しかし、BMIが27を超えると死亡率が上昇する傾向があります。したがって、少し太っていてもBMIを27未満に保つことが、健康を維持しながら医療費を節約する秘訣といえるでしょう。

運動習慣と生涯医療費の関係について見てみましょう。運動の有無を1日1時間以上歩く人と1時間未満の人に分けて調査したところ、40歳男性の場合、前者のグループは後者に比べて平均余命が1.5年長く、生涯医療費が74.5万円も少ないことがわかりました。1日1時間以上歩く人は、男女を問わず長寿であり、生涯医療費が抑えられる傾向があります。これは、有酸素運動である歩行が血管を広げ、動脈硬化を抑制し、高血圧を予防するためと考えられます。また、心筋梗塞や脳卒中のリスクの低減、大腸がん、肺がん、乳がんの発症率の低下、さらには呼吸機能の維持も関連しています。別の研究では、通勤時の歩行時間が片道20分以上の人々は、10分以下の人々に比べて高血圧の発症率が約3割低いことが報告されています。日々の小さな運動習慣が、大きな健康効果を生むのです。

肥満は、男性にとって医療費が増加し、寿命が短くなるリスクを伴う問題です。このリスクは特に20代から始まります。令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、20代男性の肥満者はわずか2.1%ですが、30代になると22.4%に増え、3人に1人が肥満になります。40代ではさらに33.7%に達します。このように、20代から30代にかけては、体重管理がその後の健康や医療費に大きな影響を与える重要な時期なのです。この時期に体重が増え続けると、30代以降さらに増加する傾向があります。しかし、40代に入り、生活習慣を見直すことで、健康寿命を延ばし、医療費を抑えることができるかもしれません。

健康な生活習慣を維持することは、長寿をもたらすだけでなく、生涯医療費の大幅な削減にも繋がります。肥満や運動不足が医療費に与える影響は大きく、早い段階から体重管理や日々の運動を意識することで、将来的な負担を減らすことができます。特に、20代から30代の生活習慣が、その後の健康や医療費に大きく影響する重要な時期です。日々の小さな選択が、健康寿命と医療費に大きな違いを生むことを忘れず、今日からできる対策を始めましょう。